わたしが初めてカヌーに乗ったのは
偶然にも支笏湖でした。
あれは四年前…中山峠が通行止になった5月。支笏湖経由で札幌に行くことに。
スワンに乗ろうとしたら、今日はベタ凪だよ、カヌー日和だよって言われて。
景色と水の透明度に夢中なわたしに、後ろから容赦ない声が。
「サボるなチビー!漕げーー!!」
ひぃぃ! ちょっと慌てたアライグマがパチャパチャ、それがわたしのカヌーデビュー。
それは数年後、ヒラフスキー場で名物罵声スキーとなるのです…。始まりはここだったのか。
2度目のカヌーは、あのダニ事件。
罵声カヌーしか知らないわたしは、実はだいぶ緊張していました。
それは、真逆のカヌー。ゆっくり、静か。漕ぐ音が聞こえなくて、見えない糸に引かれているよう。景色が流れて風が吹いて、ああ、ダニも風に乗っていたのだろうか。
3度目。
わたしは、用途のための無駄のない形が好きだ。
用の美、カヌーにはそんな美しさがある。
今まで景色ばかり見ていたけれど、カヌーの美しさに見惚れてしまった。
美しいカヌーを、美しく漕ぐ人。
技術は日々洗練されて、それは美しい所作になるのだろう。
和紙職人の友人が言っていた。
便利な時代に不便なものを使えとは思わない。必要とされないからなくなる。それだけ。仕方がない。 ただ、技術は残る。ぼくは紙を作ることが出来る。それってすごいことじゃない?
カヌーを漕げる人はいるだろうけど、全員が美しくはないだろう。
美しさはそうざらにはない。
美しく漕げる人は、すごい。
そんな美しく漕ぐ人が隣りにいて
おかげでわたしは凪のカヌーしか知りません。
そんな幸運はざらにはないよ〜。